『キリン解剖記』を読んだ感想

読んだ本紹介

あなたにおすすめ

・動物、特にキリンが好きな方

・長ーいキリンの首の骨って何個あるの?と思った方

・解剖学の世界をのぞいてみたい方

・研究テーマが決まらず、焦っている学生の方

本の紹介

『キリン解剖記』

郡司芽久 著

215ページ

定価1,200円(税別)

あらすじ

キリンを愛してやまない著者郡司芽久さんが、キリンの研究者を目指し初めてキリンの解剖をした19歳の冬。

その後9年間の研究と、郡司さんが出会った亡きキリンたちとの物語。

幼いころからキリンが大好きな郡司さんは、キリンの研究者になりたいと大学の研究室に入る。

そこで「解剖男」を自称する遠藤先生と出会い、生まれて初めてキリンの解体に参加することになる。

ハイライト

「無力感」。その一言に尽きる。キリンの遺体に、解剖という名の破壊行為をし、何の新知見にもたどり着けなかった。知識の向上にも至れなかった。命を弄んでしまったかのような後味の悪さと罪悪感が、胸に重くのしかかってきたのを、今でもよく覚えている。装置を通して得られた数字やアルファベットの羅列データでなく、生身の体を扱うことが、解剖の魅力でもあり、恐ろしさでもある。

P.70

本書の中で、「解剖」と「解体」の差について説明がなされています。

「解剖」とはじっくり時間をかけて筋肉の配置や筋繊維の走行を記録する作業のことを指し、主に研究データを取るときに行います。

また知識や技術も必須となり、体の構造を理解していなければ解剖はできません。

解剖ができる人の場合、適切な位置で筋肉を外していくことができるため、残った骨はほとんど筋肉が残っていないとてもきれいな状態になるそうです。

一方で「解体」は、マグロの解体のようにただ骨から皮膚や筋肉を外していくだけの作業を指します。

「除肉」とも呼ばれる作業で、ただ適当に肉をそぎ落としていくだけの作業に正解や不正解はありません。

郡司さんが初めて「解体」でなく「解剖」を行ったキリンのニーナ。

その後も研究者への道を歩む中で、様々な挫折を経験するときには、いつも愛するニーナへや今まで解剖してきたキリンたちが郡司さんを支えているのだと感じられるエピソードでした。

そう。哺乳類には「頸椎数が7個」という体作りの基本的ルールがある。あれだけ首が長いキリンでも、首にある「頸椎」という骨の数は、ヒトと同じ7個なのだ。

P.89

あの首のながーいキリンと私たちの首の骨の数は同じ!驚きました……

「頸椎」とは脊柱、いわゆる背骨のうち、主に首にある骨のことを指します。

左右に肋骨が接していない、比較的動きの自由度が高い椎骨を「頸椎」と哺乳類では定義しています。

そして2億年以上も昔から、哺乳類の頸椎の数はずっと7個とのことです。

長い首を動かすキリンには、8個目の頸椎があるのではないかという「キリンの頸椎8個説」が過去の論文でも出てきます。

実際、同じキリン科のオカピの7個目の頸椎と、キリンの胸椎に似た特徴があることがわかっています。

「胸椎」とは、胸の脊柱の骨のことを指し、哺乳類では肋骨に接している骨を定義づけています。

そうすると、キリンの8個目の首の骨は、上記の哺乳類の頸椎は肋骨に接していない骨という定義からはずれ、胸骨に分類されるため、多くの研究者はこの仮説を否定的にとらえていました。

郡司さんは、その「キリンの8番目の”首の骨”」の正体を研究テーマにあげ、

新たな発見をこの世に提唱するのです。

この本を読み終わって

一番感じたことは、やはり郡司さんのキリンへの愛でした。

キリンとオカピの解剖を通して真相に近づいていくシーンがあるのですが、

私も心の中で「動け!動け!」と応援しながら読み進めました。

解剖学というと難しそうと感じましたが、文章も読みやすく、気づくとページをめくる手が止まらない一冊です。

読み終わった後にはキリンの「8番目」の首の骨について誰かに語りたくなるはずです。

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